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浦和地方裁判所 昭和60年(行ウ)15号 判決 1985年12月23日

埼玉県八潮市中央一丁目一番地二・八潮中学校内

原告

伊藤隆男

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

嶋峰均

右指定代理人

杉山正己

南昇

熊谷岩人

代島友一郎

石井勝己

金井秀夫

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の請求の趣旨、請求原因その他の主張は、別紙甲のとおりであり、被告の答弁及び主張は別紙乙のとおりである。

理由

一  本件訴えは、昭和五九年度政府歳出予算の一部の効力を争うものであるが、憲法が規定する国民の納税義務と歳出予算とはその法的根拠を異にする別個のものであり、ことに所得税などその使途を限定しない租税については両者は直接的、具体的関連性を有しないから、政府歳出予算の定立は、原告の所得税納税義務ないしその徴収に基く法律上の利益にかかわらない。したがって、本件訴えが適法とされるためには民衆訴訟(行政事件訴訟法五条)による他ないが、右は法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができるものである(同法四二条)ところ、政府歳出予算減額請求訴訟を民衆訴訟として提起することができる旨を定めた法律の規定は存しないし、また、憲法自体を根拠として民衆訴訟を提起することができると解することもできないから、本件訴えを民衆訴訟として許容する余地はない。

二  よって、本件訴えは、不適法な訴えであるから、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 松井賢徳 裁判官 原道子)

別紙甲

原告は次の二点の趣旨の判決を請求する。

(一) 一九八四年度政府歳出予算中の防衛関係費を千二百五二円分減額する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

請求原因

被告は、一九八三年分所得税として原告より二万千六〇〇円を徴収した(甲―一六号証)。一)

被告は、概算で総額五〇兆六二七二億一四〇〇万円の一九八四年度一般会計歳出予算を編成し、その内、防衛関係費として二兆九三四六億四五〇〇円を計上した(「読売新聞」日刊、一九八四・一・二六、pp.|f)

訴訟理由

被告が防衛関係費を計上したことは憲法第九条第二項に違反しており(「訴状」第二章参照二))。従って、一九八四年度一般会計歳出予算中で防衛関係費が占める割合分の原告の所得税額は、不法な政策行為の為に充当されたことになるから、同予算の防衛関係費総額より削減されるべきである。

脚註

一)書証用の付属文書、及びその通し番号は、昭和六〇年(行ウ)第一一号所得税更正処分取消請求事件の「訴状」に於けるそれらと兼用する。

二)昭和六〇年(行ウ)第一一号所得税更正処分取消請求事件の「訴状」。

被告側に拠れば、本訴のような「訴訟を提起することができる旨を定めた法律の規定は存しない」ということであるが、日本国憲法の前文と、第九条、第一二条が、そのような「規定」に該たるものと原告は考える。まず、前文に拠れば、「日本国民は……政府の行為によって再び戦争の惨過が起ることのないようにすることを決意した」ことになっている。また、第九条第一項に拠れば、「日本国民は……国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は……永久にこれを放棄」したことになっている。こうした「決意」表明や宣言は、或る特定の信念に法的正当性を与えたものであり、従って、その信念に叶った国政が行われることを要求する権利を「日本国民」に保障したものである。ところが、本訴の「訴状」で指摘した通り、被告は軍事政策を執っているのであるから(P2)、「日本国民」の一員である原告の法的に正当な信念とは反対の政策が進行していることになる。ところで、第一二条に拠れば、「憲法が国民に保障する……権利は国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」ということであるから、原告は法的に正当な信念の実現化を要求する権利に基づいて、被告に対し違法な軍事政策を撤回するよう要求するものである。

最後に本件に於ける被告指定代理人達の態度について触れておく。被告の憲法違反については一切省みることをせず、姑息にも手続上の議論に耽って批難を封じ込めようとすることには、権力の分け前に有付く為に政府に奉仕する彼らの、世俗の聖職者としての面目が躍如している。

別紙乙

本案前の答弁

本件訴えを却下する

訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

答弁の理由

本件訴えは、行政事件訴訟法五条に規定する民衆訴訟に該当するものと解されるとしても、民衆訴訟は、法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができるものであり(同法四二条)、本件訴えのような訴訟を提起することができる旨を定めた法律の規定は存しないから、本件訴えは不適法な訴えである。

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